【仙台ジャズノート】コロナとジャズ(2)ロックダウン乗り越え「未来のオト」へ 作編曲家でピアニスト秩父英里さんに聞く

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】秩父さんは高校3年のときに仙台で東日本大震災(2011年3月11日)を経験。東北大学教育学部に進み、臨床心理学を専攻しました。東北大のジャズ研で演奏活動する一方、大学院に進むことが決まりましたが、卒業直前に参加した「北海道グルーブキャンプ」(バークリー音楽大学教授タイガー大越さん主宰)が縁となって2016年9月、バークリー音楽大学に正式に入学するチャンスをつかみました。

ジャズ作曲学科と映画音楽学科をダブルで専攻。東日本大震災以降の日々をモチーフにした「The Sea-Seven Years Voyage-」でオーエン賞を受賞。大学も首席で卒業した矢先に新型コロナウイルスによるロックダウンを経験しました。現在は一時帰国して実家のある仙台で「仙台ジャズギルド」の「未来のオト」プロジェクトに携わっています。

-新型コロナウイルスの影響がまだ見通せない中、作編曲家として今後、どのような活動を考えていますか?

秩父:人生、生きているといろいろあります。(笑)もともとアメリカに残ろうとは思っていました。学生でも働けるように「OPT=Optional Practical Training」の手続きもしたけれど、1年更新なのに、新型コロナウイルスのため何もできないうちにもう4カ月が過ぎてしまいました。

私の場合、節目のときに、あれっ?ということがたびたび起きます。高校を卒業し、大学に入るときに東日本大震災が起きました。臨床心理士を目指して大学院に入ろうとしていたはずなのに音楽の方にバッと変わり、今回、卒業したぞと思ったら新型コロナウイルスです。

自分のアルバムを作る計画もありますが、現状では戻っても一緒にやりたかったミュージシャンが思うようにそろうかどうか・・。今後は状況次第ですね。やはりボストンで活動するかもしれない。日本を拠点にする可能性もあるし、どこかアジアの別の国に行くかもしれません。

7月25日のライブを前に音楽家として基本的な考え方や今後について語る秩父英里さん(7月4日、仙台市青葉区一番町1丁目のsendai music place Rootsで)
7月25日のライブを前に音楽家として基本的な考え方や今後について語る秩父英里さん(7月4日、仙台市青葉区一番町1丁目のsendai music place Rootsで)

-新型コロナウイルスの問題は本当に難しく、こちらの演奏家たちも、どうすればいいか戸惑っています。ボストンの演奏家たちはどんな様子でしたか?

秩父:あまり変わらないかもしれないですね。自分も、ぽつぽつと仕事があったものが、3月の中旬ぐらいからなくなり始めました。しかも、直前になってキャンセルになるんです。自分としては長期的に取り組めるかと思っていた仕事も、止まってしまった。音楽に関係ない普通のお店とかでも、明日から店を閉じてください、ということに突然なり、その日の夕方にはもう閉まっている感じでした。日本だったら、この日から閉めますよという、告知があり、みんながそれについて文句を言う時間もあって、それから閉まるという感じでしたが、米国では補償の話なんか出るタイミングもなく、何もかもが突然でした。

-ピアノトリオで演奏している「Kaeru(カエル)」をネットで聴きました。東北大のジャズ研時代に作った曲なんだそうですね。ベースがとてもうまい。

秩父:チャーリー(・リンカーン)ですよね。あの子、すごいんですよ。わたしが最初に入ったセメスター(学期)で、アンサンブルがたまたま一緒だったんです。ミネアポリスから来ている子で、20歳ぐらいなんですが、音楽の理解とか、聴いているものとか飛びぬけていて、バークリーってこんな人がいるんだと思いました。飛びぬけて上手なので引っ張りだこです。そんな中でもわたしの「カエル」を気に入ってくれたりする。頼むと、いいよ、とやってくれる。あの子に出会えたのは大きいですね。

-オーエン賞を受賞した「The Sea-Seven Years Voyage」でも感じたことですが、秩父さんの作品は、われわれの世代(60代後半)が考えるジャズのフォーマットを、われわれの世代が聴いて分かるように取り入れてくれているように感じます。ジャズ体験はどこで?仙台でもそんなに長いことはないですよね。

秩父:インプロ(インプロビゼーション=即興演奏)的な部分と、あらかじめ作編曲で決めていく部分の入れ方は結構考えています。受賞した曲も、最初の「ヘッド」に当たるセクションを吹いて、その流れからソロに入っていくようになっています。

伝統的なビッグバンドは(叫ぶように演奏する)「シャウト」の部分が終わると「ヘッド」に戻る構成が多いと思います。そうした伝統的なスタイルにこだわるスタンスもありますが、わたしはそうしたスタイルやフォームを特に意識せずに、与えられた条件の中で最もいい選択をしたいと常に考えています。

曲の中でのソロの意味を重視します。何となくポッとソロが入ると、自分はなんのために作曲したのかな、ということになります。プレイヤーがフリーになるインプロの部分と、作編曲者として自分が書きたい部分をどう混ぜられるか、常に試したいという気持ちがあります。そういう曲では、セクションの中でリフがあれば、そのリフから勝手につながってソロになり、気づかないうちにリフは終わっているようなアレンジも考えます。

楽譜にはバックグラウンドの演奏用に音列を2小節ずつぐらい区切って書いておき「1」「2」と番号を書いておきます。リズムが鳴っているときにわたしが「1」を示したらバックグラウンドの人たちは「1」を演奏し、わたしが「2」を出したら「2」を演奏するような構成も考えます。

-指揮者がインプロビゼーションをやるような感じですか?

秩父:はい、そうです。

-その場合、曲の構造としては「1」でも「2」でも音が合うような作りにしておくということですか?

秩父:そうですね。そうしておいて、音量も同時に指示します。ドラムソロの間に指示を出すようにアレンジすることも考えられます。ドラムソロのときに指揮者の指示によって、バックグラウンドの人たちの演奏を自在に切り替えることも可能ですよね。単なるソロ-ヘッド―ソロ-ヘッドというものではない流れを取り入れつつ、奏者が自由に吹ける部分も作りたいという気持ちもあって、結構、考えるところですね。ビッグバンドなんかでも、ヘッドやってソロのコーナーがあって、ソロのバックグラウンドもカッチリ決まっていて、というのが多いでしょうけど、コードをオープンにしたり、曲のモチーフを入れたりするような、凝った工夫も結構、複雑だけれど楽しい。

何よりも自分の曲の世界観のようなものを大事にしたい。ジャズという枠組みであるかどうかより、聴いていいなと思ったり、何か感じてもらえるのがうれしい。ジャズ音楽に対する敬意はあるけれども、自分をジャズの音楽家に限定するつもりはありません。その中で伝統的なジャズに慣れ親しんでいる方にもずっと聴いてもらえるというか、理解してもらえるのはうれしい。

-仙台ジャズギルドのプロジェクトはどんな方針ですか?現段階で説明していただけることはありますか?

秩父:仙台の街のオト、景色からインスパイア受けるのも楽しみなんだけれど、作った曲が全体が一つのまとまりになるようなものにしたくて、「仙台」をローマ字の「SENDAI」にして、それを一個一個音に代えて音列をつくってみました。全部で6音分の音列ができました。それを聴いて変だったらやめようと思ったけれど、まあ、面白いのではないかと。それを見えるようにするか、見えないようにするかは、曲によって違うけれども、それを組み込みながら作っています。これは本番で初めてお知らせした方がいいですかね。(笑)

それと、今回はベースじゃなくてチェロなんですよ。ベースの部分がうまく書けるか、自分でもまだ分からないんですが、チェロ用に、ふだん、ベースでは書かないようなラインを書いてみたりしています。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界
(3)非礼を詫びるつもりが・・ なんちゃってバンドマン①
(4)プロはすごかった なんちゃってバンドマン②
(5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③
(6)しごかれたかな?なんちゃってバンドマン④

4.コロナとジャズ
(1)仙台ジャズギルドの夢・仙台出身の作編曲家秩父英里さんとコラボ
(2)ロックダウン乗り越え「未来のオト」へ/作編曲家でピアニスト秩父英里さんに聞く
(3)動画配信で活路を開く/ベース奏者三ケ田信也さんの場合

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TOHOKU360は、東北のいまを東北に住むみんなの手で伝える、参加型の"ニュースプロジェクト"です。経験豊富なメディア出身者で構成される「編集者」と、東北6県の各地に住む住民の「通信員」とが力を合わせ、まだ知られていない価値あるニュースを一人一人が自分の足元から発掘し、全国へ、世界へと発信します。

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