【仙台ジャズノート】コロナとジャズ(1)仙台ジャズギルドの夢・仙台出身の作編曲家秩父英里さんとコラボ

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】新型コロナウイルスの感染拡大を懸念する空気が支配的になって以来、ジャズの現場はほとんど動かなくなりました。コンサートやライブの中止が相次いだ結果、演奏者と聴き手の間には思わぬ断層が生まれ、演奏者同士のコラボ空間もほぼ完璧に奪われました。

ジャズ音楽はライブの演奏者と聴き手の間の呼び掛けと応答「コール&レスポンス」や「アドリブ(即興演奏)」を特に重視します。ステージの上で瞬間的に繰り出す旋律やリズムを互いに意識しながら音列を生み出すのがアドリブであり、演奏者がコラボできない環境では、ジャズ音楽になりようがありません。

予想外の展開を見せた新型コロナウイルスとジャズの関係を読み解くポイントはいろいろありますが、演奏者から聴き手まで、ジャズ音楽に関心のあるさまざまな立場の人たちに問われているのはジャズ特有の「コール&レスポンス」の音楽空間を今後、どう回復させるかです。PART4では「コール&レスポンス」の形を模索する事例を追います。

新型コロナウイルスによってもたらされた重苦しいムードを吹き飛ばそうと、街に満ちている音に触発された「未来のオト」を世界に発信する試みが仙台市で進んでいます。米ボストンにあるバークリー音楽大学を首席で卒業した作編曲家でピアニストの秩父英里(ちちぶ・えり)さん=仙台市出身=が作曲を引き受け、7月25日には仙台地下鉄東西線・国際センター駅2階にある「青葉の風テラス」で、仙台で活躍している中堅・若手の演奏家らと共演します。「仙台でホンモノのジャズライブを!」を合言葉に活動しているグループ「仙台ジャズギルド」の主催。「with コロナ時代」のジャズライブの形を提案しています。

「広瀬川に行って、牛越橋のところから河原に下りました。小さすぎず、大きすぎずの川ですね。普段、意識しない音をいろいろ録音しました。(作曲の過程で)0から1にするときは集中する必要があるので、ホテルの一室にこもりました。音を聴いて感じたことを曲にする。興味深いです。現在まで4つの曲が出来ています」

(秩父英里さん・提供写真)

秩父さんは米国の権威ある「ISJAC/USFオーウェン賞2020、ハーブアルパート・ヤングジャズ作曲家賞2019/2020を受賞。現在帰国中。街の音の収集家でNHKラジオにも出演している菅原宏之さんと協力しながら、数カ所分の街の音を収集し、作曲に着手しているそうです。秩父さんの曲は出来上がり次第、順次、仙台の地図に埋め込み、インターネットでも視聴できるようになります。

秩父さんの作品は最終的には組曲の形で世界中に発信されます。「青葉の風テラス」のライブでは、サックス奏者の名雪祥代さんと林宏樹さん、ギタリストの鈴木次郎さん、クラシック畑から仙台フィルの山本純さん(チェロ、賛助出演)らの出演が決まっています。

「青葉の風テラス」ライブは申し込み順で30口(1口1万円。チケット3枚つき)限定で募集し、すでに満員御礼。仙台ジャズギルドはこのプロジェクトを支える寄付も併せて募っています。「仙台ジャズギルド」事務局は「ライブはインターネットで配信するので、そちらでの支援もワンクリックでよろしく」と話しています。問い合わせは仙台ジャズギルドsendai.jazz.guild@gmail.comまでメールで。仙台ジャズギルド宣言はこちら⇒http://jazz-guild.com/mesmerize/

「ギルド(Guild)」は中世から近世にかけて西欧各都市の商工業者が結成した職業別組合です。「仙台ジャズギルド」は西欧近世のギルドにちなんで演奏家やジャズ愛好家ら立ち上げた有志のネットワークです。構想段階から仙台ジャズギルドにかかわっているサックス奏者の名雪祥代さんは「音楽好きな市民に参加を呼び掛け、『真にプログレッシブなジャズライブ』(仙台ジャズギルド宣言)を開ける環境をつくりたい」と話しています。「プログレッシブ」は「進歩的な」「漸進する」の意味。市民の思いを結集する形で、魅力的なジャズライブを企画し、誘致することを目指しています。

(仙台ジャズギルドの第2回ライブに出演したJoe Sanders (Bass) さんとTaylor Eigsti (Piano)さん。2019年11月6日(水)、ノーバルサロン(旧・ジャズミーブルース・ノラ)で。)

仙台ジャズギルドに参加し、ライブを楽しむには、ライブごとに一口1万円を出資します。3枚つづりのチケットがついてきます。ライブごとの収支を公開することで一人でも多くの市民の参加を促しています。

単純に割り算すると、一人当たり「3333円」の入場料と言えないこともありませんが、仙台ジャズギルドがあえて「1万円」「3枚つづり」としているのには理由があります。

仙台ジャズギルドの事務局は「1万円の出資でチケットが3枚というのがみそなんです。3枚つづりで、一人当たりにすればリーズナブルな価格になるように頑張るので、お友だちや家族をどんどん誘っていただきたい」と呼び掛けています。仙台ジャズギルドのコンセプトには「なるべく多くの人たちに音楽を聴いてほしい」という演奏家の思いと、「少しでもお得な料金でいいジャズを楽しみたい」というリスナーの思いが交錯しています。

前売でたとえば一人3500円あるいは4000円のチケットを買ってもらう考え方もありそうですが「仙台ジャズギルド」の考え方に賛同する人たちを一人でも多く育て、ジャズ音楽のすそ野を広げたいとの狙いもあるようです。

仙台ジャズギルド主催でこれまで開いたジャズライブは、オマール・アビタル(ベース)とヨナタン・アビシャイ(ピアノ)のデュオとJoe Sanders (Bass) さんとTaylor Eigsti (Piano)さんのデュオの2回。いずれもニューヨークで注目されているミュージシャンで、「漸進的な」ジャズライブとなっていました。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界
(3)非礼を詫びるつもりが・・ なんちゃってバンドマン①
(4)プロはすごかった なんちゃってバンドマン②
(5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③
(6)しごかれたかな?なんちゃってバンドマン④

4.コロナとジャズ
(1)仙台ジャズギルドの夢・仙台出身の作編曲家秩父英里さんとコラボ
(2)ロックダウン乗り越え「未来のオト」へ/作編曲家でピアニスト秩父英里さんに聞く

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