【仙台ジャズノート】地域発のジャズを楽しむ

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】仙台地域のジャズ演奏家たちにとっても、米国ニューオーリンズで誕生して100年になるジャズの歴史を意識し、その関心が世界に向かうのは、演奏家としての本能のようなものです。一方、自分の住む地域の出来事や歴史、文化が音楽家としての根っこを模索するうえで、非常に大切な要素になっているのも事実です。身近な地域に限定する形で、ジャズの人たちに会い、その音楽を聴く旅は間もなく区切りを迎えます。

「仙台ジャズノート」のPART5「次世代への視界」では、藩政時代、仙台地域から世界を目指した仙台藩士たちの航海をジャズ組曲に仕立てた作品「支倉常長<Sant Juan Bautista(サン・ファン・バウティスタ)>」を紹介します。併せてプロ、アマチュアを代表する形で二人のベテランに登場してもらい、ジャズ環境の時代的な変化と、今後の可能性に思いを馳せます。プロとアマの間にかけるブリッジをイメージしながら・・。

「支倉常長<Sant Juan Bautista(サン・ファン・バウティスタ)>」は、バンドリーダーでトロンボーン奏者白石暎樹さんが率いるプロのビッグバンド「SOUND SPACE(サウンドスペース)」が東日本大震災からの復興を祈念して2011年に発表しました。ビッグバンドジャズの魅力をふんだんに盛り込んだ「Let’s Sound The Space!」を皮切りに7曲を収録しています。「Let’s Sound The Space!」はサウンドスペースのテーマ曲でもあります。

この連載のPART2「現場を見る」にも登場している沢野源裕さん(トランペット)が「I Always Remember You」「Forward(前へ)」「支倉常長<Sant Juan Bautista>」の3曲を提供しています。「支倉常長<Sant Juan Bautista>」は、仙台藩主伊達政宗の命を受けた慶長遣欧使節がテーマ。支倉常長らが立ち寄った国々の音楽スタイルを取り入れ、本格的なジャズ組曲に仕上げています。

地域にテーマを求めてジャズの魅力を表現した組曲「支倉常長<Sant Juan Bautista(サン・ファン・バウティスタ)>」。白石暎樹さんが率いるプロのビッグバンド「SOUND SPACE(サウンドスペース)」が2011年に発表した。
地域にテーマを求めてジャズの魅力を表現した組曲「支倉常長<Sant Juan Bautista(サン・ファン・バウティスタ)>」。白石暎樹さんが率いるプロのビッグバンド「SOUND SPACE(サウンドスペース)」が2011年に発表した。

沢野さんのもう一つの作品「I Always Remember You」では、サックス奏者後藤美久夫さんの美しいテーマやソロを聴くことができます。後藤さんは「高橋達也と東京ユニオン」で活躍。ビッグバンドのメロディラインをけん引する著名な「リードアルト」として知られています。新型コロナウイルスの感染拡大を重苦しく感じる人にとっては、大切な家族や友人らを思い出し、かみしめる曲としてもうってつけでしょう。

米国における同時多発テロを経験している沢野さんが東日本大震災の被災者のために前を向こうと呼び掛けたのが「Forward(前へ)」。もちろん、今なら「コロナ禍」に苦しむ人たちの共感と癒しを引き出してくれるはずです。

日本有数のコメどころ宮城県大崎地方に住むヒロ菊池(菊池栄広)さんは「ひとめぼれサンバ(Samba De “Hitomebore”)」を提供しています。文字通り、宮城生まれのコメ「ひとめぼれ」に題を求めたサンバ調の作品です。郷土への愛情をにじませた作品で菊池さん名義のCDにも、少人数編成の作品として収録されています。

菊池さんの「Samba De Playmate」は千手寺(大崎市古川)が経営する幼稚園のにぎやかな情景をとらえています。その昔、筆者は地方記者として大崎地方を取材範囲とした縁があって千手寺幼稚園には何度も取材に行きました。「Samba De Playmate」を聴くたびに懐かしさでいっぱいになります。

「支倉常長」は郷土の歴史に思いを寄せながら創ったジャズ音楽といっていいでしょう。郷土の歴史や風土へのこだわりが強いほど世界に通じるオトになる。10年前、壮大なテーマに挑んだ演奏家の多くが、今、仙台圏のジャズの現場を担っています。白石暎樹さん、後藤美久夫さん、沢野源治さん、村上徳彦さん(ギター)、齋藤孝さん(パーカッション)、林宏樹さん(サックス)ら、今回の一連の取材でインタビューさせていただいたり、ライブを聴いたりした人たちです。

あれから10年。参加したミュージシャンの多くがジャズシーンの今を支えている。「支倉常長<Sant Juan Bautista(サン・ファン・バウティスタ)>」のCDジャケットから。

人間関係を前提に生きる以上、ときには、何かとややこしい場合もありますが、CDジャケットに掲載された集合写真をながめながら演奏を聴いていると、東日本大震災後の10年という時間がどんな「ジャズ関係」をあらたに生み出してきたかが気になってきます。

郷土に主題を求めたジャズ作品はまだまだあるし、これからも作り続けられるはずです。試みに使ってみた宮城県、仙台市の図書館の検索サービスでは「支倉常長」はヒットしませんでしたが、地域発の音楽データベースのようなものがあってもいいなあ、と思うのでした。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”
(3)リジェンドフレーズに迫る 公開練習会から
(4)若い衆とビバップ 公開練習会より
(5)「古き良き時代」を追うビバップス
(6)「ジャズを身近に」
(7)小さなまちでベイシースタイル ニューポップス
(8)持続する志 あるドラマーの場合
(9)世界を旅するジャズ サックス奏者林宏樹さん
(10)クラシックからの転身 サックス奏者名雪祥代さんの場合
(11)「911」を経て仙台へ トランペット奏者沢野源裕さんに聞く①
(12)英語のリズムで トランペット奏者沢野源裕さんに聞く②
(13)コピーが大事。書き留めるな/トランペット奏者沢野源裕さんに聞く③

3.回想の中の「キャバレー」
(1)仕事場であり、修業の場でもあった
(2)南国ムードの「クラウン」小野寺純一さんの世界
(3)非礼を詫びるつもりが・・ なんちゃってバンドマン①
(4)プロはすごかった なんちゃってバンドマン②
(5)ギャラは月額4万円 なんちゃってバンドマン③
(6)しごかれたかな?なんちゃってバンドマン④

4.コロナとジャズ
(1)仙台ジャズギルドの夢・仙台出身の作編曲家秩父英里さんとコラボ
(2)ロックダウン乗り越え「未来のオト」へ/作編曲家でピアニスト秩父英里さんに聞く
(3)動画配信で活路を開く/ベース奏者三ケ田伸也さんの場合
(4)「WITH コロナ時代」のプラットフォーム
(5)一歩でも前へ/サックス奏者安田智彦さんの場合
(6)コミュティFMと連携 とっておきの音楽祭の挑戦

5.次世代への視点
(1)地域発のジャズを楽しむ
(2)プロとして60年:ビッグバンドリーダー白石暎樹さん(77)

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